歴史を学ぶ中学生が、日本だけではなく世界の歩みも平易に理解できるようにと願ってつくったのが、この教科書です。

歴史を学ぶ意味は、私たちとちがう時代や地域に生きた人びとに出会うことをとおして、自分自身を理解することにあります。自国のことしか知らない人は、その自国のこともじつはよく理解していません。日本のことだけを学んでも、それを取り巻く諸地域との交流や、世界全体が歩んできた大きな流れを理解しなければ、日本という国の成り立ちを知ったことにはなりません。

日本列島に住む人びとは、古代から周辺の東アジア世界の影響を強く受け、またのちには欧米諸国を模範として近代化への道を歩みました。この教科書では、世界の歴史から見た日本の位置をわかりやすく説明するようにつとめました。

中学校から高校に進学すると、「歴史総合」「世界史探究」「日本史探究」の学習も始まります。そうした科目学習へスムーズに入ってゆくための予備知識も、この教科書は提供してくれます。

グローバル化の進んだ現在の世界は、地域紛争や格差の拡大、地球環境の破壊など、さまざまな問題に直面しています。世界がどのようにして今日のような姿になったのか、その諸問題がどのような背景から生じてきたのかを、中学生がこの教科書からぜひ学び取って欲しいと願っています。

私たちは、大人の入り口に立つ中学生のみなさんに、ぜひ歴史的なモノの見方や考え方を身につけてほしいと願っています。今の私たちの生活や技術は一朝一夕にできたわけではなく、何世代にもわたる先人たちの努力や試行錯誤の積み重ねにほかなりません。このごく当たり前の事実に思いをはせて欲しいのです。また、人類は成功ばかりでなく、多くの失敗も繰り返してきました。現代に繋がることなく滅んでいった文明もたくさんあります。そのような失敗や滅亡の原因を考えることも大切な勉強でしょう。

一方、美しい自然や限りある資源は今生きている私たちだけのものではなく、まだ生まれてきていない未来の世代のものでもあります。過去と未来の双方を見通すことで、私たち一人一人の人生も長い人類史の一部であることを知るでしょう。それは、これから大人になり、社会を背負ってゆく中学生にとって、とても大事な経験です。私たちは、この教科書をとおしてその瞬間によりそいたいと考えています。

高校では、近現代史を中心に講じられる「歴史総合」という新しい科目も待っています。そのときにあわてないためにも、私たちの教科書で前近代史からしっかりと学び、さらに「日本史探究」「世界史探究」を学ぶ際に役立つ思考力のベースを、身につけてほしいと思います。

思いのほか中学生は歴史好きで、流行のゲームやアニメの影響からか戦国時代などはたいそう博識ですが、一方で暗記科目と断じます。高校でも同様に、日本史と世界史を選択することは「W史は大変」と言われます。原因は、人物や事件名など歴史の知識が無機質な「点」に留まっていることによるのではないかと日々生徒と接していて感じます。

この教科書では、あるできごとがどこから来て、どこへとつながっていくのか、歴史における意義は何か、画期・分岐点はどこか、に重きを置き、知識が有機的につながるような記述につとめました。

とくに高校生が等しく学ぶ「歴史総合」への架橋として、近代以降では、たとえば「国家」「植民地」「日本経済」「普通選挙」「憲法」「領土」などについて「歴史へのアプローチ」や「歴史を考えよう」というページを配し、「用語解説」も適宜設けて、苦手としがちな概念用語にも向き合えるようにしました。あわせて、グラフ・絵図の読みときや、とくに「問い」を表現することが面白くなるように工夫しました。「問い」は教科書の随所に配し、「日本史探究」「世界史探究」に通じるものも、一部用意しました。

この教科書で学ぶことにより、歴史を「線」や「面」としてとらえられるようになり、歴史の授業の時間が待ち遠しくなることを願ってやみません。

「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる」。統一ドイツの初代大統領ヴァイツゼッカーの言葉通り、これからの社会の担い手である中学生が、現在を正しく理解するために歴史を学ぶことはとても大切です。

本書は、知的好奇心に満ちた中高一貫校の生徒の期待にも応えてくれる教科書です。本文の記述内容や記述量、史資料などが大変充実していることはもちろんですが、そのほかにも「歴史へのアプローチ」(琉球の歴史と文化、近代日本と女子留学生など)・「地域からのアプローチ」(奈良、札幌、広島など)・「歴史を考えよう」(関所を考える、江戸図屏風を読み解くなど)等、様々な角度から多彩なテーマで特集を組み、中学生の歴史についての興味や関心を最大限に引き出す構成になっています。

また、書名にもみられる通り、日本だけでなく世界も含めた歴史全体の流れを重視している点も、本書の大きな特徴です。地図とイラストを用いて当時の世界を視覚的に表現した「〇世紀の世界」など、中学生の理解を助けるための様々な工夫もこらされています。

さらに、山川出版社の高校歴史教科書と継続性をもって学習できる中学歴史教科書である本書で学ぶことは、生徒にとって大きなメリットとなります。多くの中学生にこの教科書を使って、高等学校につながる歴史の学びを体感してほしいと願っています。